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脳卒中後に生じるHemiplegic shoulder pain(HSP)に関連する要因について

UPDATE - 2021.9.30

<抄録>

 脳卒中を罹患した対象者において、肩痛(Hemiplegic shoulder pain [HSP])を有する対象者の割合は,生活機の一般的な環境下で22-23%,亜急性期等でリハビリテーションを受けている環境下では54-55%であると報告されている.脳卒中後に生じるHSPは,純粋な痛みだけでなく,Quality of Lifeや機能的予後の低下,うつ病,入眠障害,入院期間の長期化等をの要因ともされている.本コラムでは、HSPの疫学と、それらの原因となるKalichmanらが示している1)軟部組織(末梢運動器)の病変,2)運動制御の障害(痙縮等の筋の張力の問題),3)末梢神経および中枢神経系の活動の問題,の3つの分類について解説を行なう.

     

1. Hemiplegic Shoulder Painについて

 Hemiplegic Shoulder Pain (HSP)は脳卒中後の上肢麻痺に併存する痛みを示す一般的な用語と考えられている.HSPの発生の要因は様々な病態に起因していると言われている.HSPの典型的な臨床像としては,重度な上肢麻痺,肩甲上腕関節の亜脱臼,肩の痛み(時折,肘や手指と言った末梢部位まで放散する痛みも含む),上腕二頭筋と棘上筋の腱上の局所的な圧痛が挙げられる。HSPにおいては,安静時も持続的に痛みが生じる病態もあるものの,通常は麻痺側上肢や手指の受動的な動きや他動的な肢位変換時に痛みを生じる場合が多い.多くのHSPを伴う脳卒中患者は,中等度から重度の痛みを有し,特に夜間に痛みが強くなるケースが多く,睡眠障害をきたすことが非常に多い.脳卒中後にHSPを有した対象者は,肩関節周辺の痛みに加えて,Quality of lifeの低下,機能予後における見通しの低下,うつ病,睡眠障害,入院期間の長期化と関連性があると考えられている1-4

     

2. HSPの有病率

 Kalichmanら5によると,HSPの有病率は,脳卒中患者の5-84%と非常に広いものとなっている.ただし,脳卒中罹患からの期間や麻痺の重症度,データの母集団を取り巻く環境要因が,これらのばらつきの要因であると考えられている.例えば,一般的な生活環境におけるニュージーランドとスウェーデンの人口調査の結果では,脳卒中罹患後の対象者におけるHSPの罹患率は,22-23%程度であったと報告されている6-7.さらに,リハビリテーション病院にて実施された1000人規模の調査においては,脳卒中罹患後のHSPの有病率は55%程度であったと報告されている.

     

3. HSPに関連する肩関節の構造

 肩甲帯は4つの骨(鎖骨、肩甲骨、肋骨(第2-7),上腕骨)による胸鎖関節、肩甲胸郭関節、肩甲上腕関節の3つの関節によって構成さている.3つの関節が連動して動くことによって,肩関節自体が3次元的に動くことを可能にしている.特に肩甲上腕関節は身体の中でも最も可動性が高く,自由度の高い関節の一つである.しかしながら,それらの可動性を得るために,関節自体の固定性は非常に低い.静的な固定性については,関節の解剖学的構造上、関節唇、関節包、肩甲上腕靱帯、によって生まれる関節内陰圧によってなされている.また,肩甲上腕関節における動的な固定性は,周辺の筋肉により固定される部分が多く,ローテーターカフ,上腕二頭筋長頭,その他の肩甲帯周辺の筋(大胸筋,広背筋,前鋸筋等)がそれらの役割を果たすと言われている.ローテーターカフや上腕二頭筋長頭の協調性の低下は,一般的には肩甲上腕関節の不安定性を助長し,肩甲上腕関節の被膜弛緩の原因となる.また,ローテーターカフの協調性の低下により,上腕骨頭と烏口肩峰弓の間の肩峰下軟部組織が圧迫されると、肩峰下インピンジメントが生じることがある。加えて,肩甲上腕関節の動きには、肩甲骨の協調的な動きも重要な要素となる.肩甲上腕関節の動きに強調して生じる肩甲骨の動きを肩甲上腕関節のリズムという.肩関節の外転180度に対して、肩甲上腕関節では120度、肩甲胸郭関節では60度の動きがあると考えられている.肩甲骨周囲筋の痙縮や、運動制御路の病変による筋活動の非同期化によって肩甲上腕骨のリズムが乱れると、肩の軟部組織を損傷する可能性も十分考えられる.

     

3. まとめ

 今回は,脳卒中後のHSPにおける疫学と,それらに関連する関節の解剖的な構造について論述した.今後のコラムでは,HSPのカテゴリやそれらに対する対処法について,論述していくこととする.

     

参考文献

  1. 1.Chae J, Mascarenhas D, Yu DT, et al: Poststroke shoulder pain: Its relationship to motor impairment, activity limitation, and quality of life. Arch Phys Med Rehabil 2007;88:298-301
  2. 2.Barlak A, Unsal S, Kaya K, Sahin-Onat S, Ozel S: Poststroke shoulder pain in Turkish stroke patients: Relationship with clinical factors and functional outcomes. Int J Rehabil Res 2009;32:309-15
  3. 3.Roy CW, Sands MR, Hill LD: Shoulder pain in acutely admitted hemiplegics. Clin Rehabil 1994;8:334-40
  4. 4.Savage R, Robertson L: Relationship between adult hemiplegic shoulder pain and depression. Physiother Can 1982;34:86-90
  5. 5.Kalichman L, Ratmansky M: Underling pathology and associated factors of hemiplegic shoulder pain. Am J Phys Med Rehabil 2011;90:768-780
  6. 6.Lindgren I, Jonsson AC, Norrving B, Lindgren A: Shoulder pain after stroke: A prospective populationbased study. Stroke 2007;38:343-8
  7. 7.Ratnasabapathy Y, Broad J, Baskett J, Pledger M, Marshall J, Bonita R: Shoulder pain in people with a stroke: A population-based study. Clin Rehabil 2003; 17:304-11
  8. 8.Turner-Stokes L, Jackson D: Shoulder pain after stroke: A review of the evidence base to inform the development of an integrated care pathway. Clin Rehabil 2002;16:276-98

     

<最後に>
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