<抄録>
ダイナミックスプリントは,事故等による外傷に由来した上肢末梢の障害に対する治療手段として,筋力強化,関節運動の矯正,保護,支持,関節拘縮の予防・改善を目的とした装具である.対象の疾患としては,手指の筋断裂や腱損傷,関節拘縮などの症例で使用されることが多い装具である.ダイナミックスプリントは,装具内にゴムやバネ,形状記憶合金等を有しており,それらの素材から発せられる外力によって,上記の目的を果たす装具と考えられている.上記のように,整形疾患等に主に利用されてきたダイナミックスプリントであるが,近年では特に脳卒中後の上肢麻痺のアプローチに用いる機能的装具として用いられていることが多い.本コラムにおいては,脳卒中後の上肢麻痺のアプローチに用いるダイナミックスプリントの効能について,解説を行う.
1.従来のダイナミックスプリントの役割
元来,ダイナミックスプリントの多くは,手の外科患者の治療において,早期術後から将来的に機能的な上肢・手指を獲得するために,非常に重要なアプローチ手段とされている.手の障害に対する早期術後療法の中で,スプリント療法の適切な役割は,良肢位の固定,代償,練習,変形防止など手の機能回復を促す際に,非常に大きな役割を持っている.
ダイナミックスプリントの種類としては,アウトリガー付きダイナミックスプリント(動的指伸展保持用スプリント),ケープナースプリント(IP伸展補助装置),屈曲スプリング(IP屈曲補助装具),ナックルベンダー・逆ナックルベンダー(指用,MP関節用),屈筋腱損傷後の背側スプリント,MP関節用動的スプリント,トーマス型懸垂スプリント,牽引装置付きリストカフなどある.これらのダイナミックスプリントは,単独の腱損傷だけでなく,骨折や血管損傷,神経損傷を伴う対象者に多く利用され,さらにターゲットにする関節や関節運動によって,多種多様な装具をオーダーメイドに使い分ける必要がある.
2.脳卒中患者に対するダイナミックスプリントの実際
脳卒中後の上肢麻痺に対する装具療法といえば,多くの方々が痙縮予防や良肢位を保つための静的装具を想像することが多いのではないだろうか.近年では,脳卒中後の上肢麻痺に対するリハビリテーションにおいても,ダイナミックスプリントが使われることが多くなっている.ここで使用されるダイナミックスプリントは,従来の静的スプリントと同様に,痙縮予防や良肢位を保つために使用されるのだろうか?答えは,『いいえ』である.
脳卒中後の上肢麻痺に対するダイナミックスプリントは,対象者が麻痺によって失ってしまった機能を装具によって補填し,その手の機能を補助した上で,練習や生活を実施できるといった,『機能的装具』としての役割を持っている.特に,一般的な臨床場面でも利用されるダイナミックスプリントとしては,橈骨神経麻痺による下垂指に対して用いる『スパイダースプリント』が挙げられる.スパイダースプリントは,手指の伸展機能を補うことを目的とした動的装具である.母指の基節骨と示指〜小指の中節骨に装着するカフを結ぶピアノ線または形状記憶ワイヤーの弾力が,手指伸展を補助することで,握ることはできるが,手指の進展の随意運動が不可能なBrunnstrom Recovery Stage Ⅱ〜Ⅲレベルの対象者の方でも,物品を握って離すことを可能とする装具である.この装具を利用することで,対象者は単独での物品の移動が可能となることから,効果のエビデンスが確立されているConstraint-induced movement therapy(CI療法)等の課題指向型アプローチにチャレンジすることができる.こういった実践報告が本邦においても,いくつか見られ,生活期に入った対象者の方の上肢機能,手指機能の改善を報告している1, 2.ただし,本邦においては,これらを用いたより大規模かつ正確な研究デザインを用いた試験は実施されておらず,それらを併用した効果については,明らかにされていない.従って,この点については,海外の知見を紹介することとする.
Alexanderらは,7225の論文から,Systematic reviewによって4本のランダム化比較試験,56名の対象者を選定し,分析を行なった.その結果,ダイナミックスプリントを併用した介入は,対照群に比べ有意な改善効果を認めた(上肢機能:平均差6.23,95%信頼領域0.28-12.19,巧緻性:平均差2.99,95%信頼領域0.39-5.60).ただし,残念ながら,4つの論文のバイアスリスクは大きいく,規模も小さいため,今の所,効果のエビデンスとしては不十分ということが報告された.
引用文献
1.天野暁,竹林崇,花田恵介,梅地篤史,丸本浩平,道 免和久:慢性期重度上肢麻痺に対する手指装具使用下 での Modified CI 療法の一症例,作業療法ジャーナル, 48(3),259-264,(2014).
2.花田恵介,竹林崇,梅地篤史,天野暁,丸本浩平,道 免和久:脳卒中後の慢性期重度片麻痺に対する多角的 な上肢機能訓練を実施した一例,作業療法ジャーナル, 47(11),1300-1305,(2013).
3.Alexander, Jen, Jesse Dawson, and Peter Langhorne. “Dynamic hand orthoses for the recovery of hand and arm function in adults after stroke: A systematic review and meta-analysis of randomised controlled trials.” Topics in stroke rehabilitation 29.2 (2022): 114-124.
<最後に>
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